防災教育フォーラム 2024 in 愛媛の成果報告
2024年3月10日(日)に、「防災教育フォーラム 2024 in 愛媛」が、西予市図書交流館(まなびあん)で行われました。本会は、これから求められる防災教育の在り方について考えていくもので、対面とオンラインのハイブリッドで開催されました。当日は、教育関係者だけではなく、地域・社会づくりに関わる方々も参加されました。
前半には、被災地の学校で防災教育の実践に取り組まれてきた方々による、3つの実践発表が行われました。第一に、愛媛大学井上昌善先生、 西予市復興支援室和気伸二氏、西予市危機管理課井上一善氏による「まちづくりに着目した防災教育の授業づくり―西予市内の小学校における授業実践を事例として―」の発表が行われました。
まずは、井上先生から、「育てたい子ども像」と「教材化のポイント」についてのお話がありました。持続可能な社会の創り手となることができるよう、読解力や表現力に加え、納得解を生み出す力の育成が求められていること、従来の防災教育では不十分だった“まちづくり”への参加意識を醸成することがポイントであることなどが示されました。
次に、危機管理課の井上氏から、平成30年の豪雨災害の教訓を学びに繋げるために行った、西予市での実践報告が行われました。野村の災害伝承展示室を学びの拠点としていること、人と人が関わり合って、学び合う空間づくりが不可欠であることから、語り部さんと協働していること、既存の学習プログラムと結び付けていること、新たに「事前復興」の視点から学習を進めていることなどが示されました。
また、会場にお越しの語り部の代表の方から「まちの役に立ちたいという思いで、災害にあったそのまちを歩きながら語り部をしている」、「災害の経験を通して社会全体の幸せや豊かさを繋げる力を、自分の中に描いてほしい」というお話をいただきました。
復興支援室の和気氏からは、「自分も語り部になりたい」という感想を持った小学5年生女の子のお話をしていただきました。被災当時5歳くらいだった子どもが、この防災教育を通して次代に引き継いでいきたいという思いを持ったことへの嬉しさを、語ってくださいました。
最後にまとめとして、井上先生から、単元の実際や防災教育推進のためには、災害前から災害後のフェーズと個人・社会レベルのそなえを網羅したカリキュラムデザインが必要であることが提言されました。
第二に、神戸市立福田中学校宇都めぐみ先生による、「継続的な防災教育をどのように展開しているのか―神戸市の中学校の取り組みから―」の発表が行われました。子供たちに育成したい力や防災教育で身につけさせたいことを踏まえ、学年主任というお立場から、3年間にわたって行っている防災教育の計画について報告していただきました。
学校全体で行う1.17セレモニーに加え、第1学年で行った、防災クイズ教材「幸せ運ぼう」や、阪神・淡路大震災を取り上げた道徳教材の活用、紙灯篭制作、防災倉庫の見学、市民防災センターでの防災体験などの実践が紹介されました。そして、第2学年で行った、マイタイムラインの作成や、フィールドワーク(1次避難の公園から福田中学校までの最善のルートを考える)、炊き出しなどの実践が紹介されました。また、次年度の第3学年で行う予定の計画も紹介されました。
最後に、災害を教材化する際のポイントとして、①体験的な学びを充実させること、②地域への還元を行うこと、③防災学習が進路にもつながるというように、学習につながりを持たせることが挙げられました。そして、学校の防災教育を推進するために、①単発の学びで終わらないように、3年間で計画的に実施していくこと、②常に自分の知識をアップデートしていくというような、教師の学ぶ意欲が重要であること、③学校内で3学年が協力し、同じ熱量で意識を高く持つことが重要であることが述べられました。
第三に、盛岡大学佐藤彩香先生による、「岩手県の小学校における復興・防災教育の実践」の発表が行われました。「当事者」ではないという複雑な感情を持ちながら被災地で教員になった佐藤先生の、岩手県沿岸南部でのご実践を報告していただきました。
「釜石の出来事」は“奇跡”ではなく、発災前から学んできたことが生かされた“出来事”であること、東日本大震災釜石小学校記録集「いきいき生きる」から、今後伝えていくものとして大切なものに気づいたこと、「いきる」「かかわる」「そなえる」教育的価値のある絵本が刊行されたこと、などの紹介がありました。
また、「いわての復興教育」の特徴として、①大きな悲しみや不安を「新たな可能性」「未来への輝き」へと変えていく、未来志向であること、②被害の多寡によらず、子どもたち一人ひとりが震災津波と向き合えるような、全県的な取組であること、③現在行われている教育を補完・充実していくものであること、などが紹介されました。
次に実践事例として、大槌町立大槌学園で行われていた教育「ふるさと科」における、復興教育の報告がありました。“つなみてんでんこ” のような、沿岸地域で暮らす「お作法」を知ることの重要性、そして知識を得るため、伝えていくために、「語り」「継ぎ」が重要であることが述べられました。
まとめとして、知識・技能を身に付けることだけが防災教育ではなく、復興・防災教育を通した「ひとづくり」、人間性こそ大切に育てたい、という思いが語られました。
前半のまとめとして、愛媛大学教職大学院の中尾茂樹先生から、実践へのコメントをいただきました。「防災教育は、人権教育や命の教育など、全ての教育を網羅している。防災教育を進めると人は優しくなる。西予市には、避難所運営も笑顔でできる、そして前向きな復興が起こる、『西予の必然』になってほしい。」というお言葉をいただきました。
後半には、3つの発表を踏まえたディスカッションを、4つのグループで実施しました。主な内容は、「①報告を聞いて感じたこと(災害の教材化のポイント、課題など)」「②防災教育推進のために必要なこと」についてです。
グループ1では、直接的に災害を経験していない子どもたちが多くなる中で、防災の重要性を捉えさせることが必要であるという意見がありました。そのためには、学校内外の多様な資源を関連づける教師のまなざしや手立てが必要になると考えます。一方、本会の発表は学校や地域社会が有機的に関連づくことで実現した防災学習であると言えます。本実践を自分が住む地域に置き換えた際、学校と地域が連携するうえでは学校外にもキーパーソンが必要になるのではないかという意見もありました。
グループ2では、防災教育を学校の中だけで行うことには限界があり、地域社会と連携した防災学習が重要になるという意見がありました。また、夜に災害が起きた場合や子どもたちが登下校をしているときに災害が起きた場合のことを想定した訓練を行う必要があるという意見がありました。一方、災害が起きた場合は想定していないことが起きることを前提に、防災を軸に既存の学習を有機的に関連付ける工夫も必要ではないかという気付きがありました。
グループ3では、学校内外の様々な人との関りを通して、他者や地域社会に影響を与えている実感を持たせることが重要であり、そのために既存のカリキュラムの中への防災学習への位置づけが重要であるという意見がありました。それを実現する視点を得るうえでは、他地域で実践されている防災教育を学びその良さを見つけようとする姿勢や、学校と地域社会という枠組みや立場をこえてコミュニケーションを図ることが重要であるという意見がありました。
グループ4では、地域と学校が連携した防災教育を通して、子どもを地域全体で育てていく視点も大切ではないかという意見がありました。計画的に防災学習を組織することで、地域との繋がりもより継続するのではいかという意見がありました。また、地域との関わり方を考える際に、地域から教えてもらう一方的な関係ではなく、子どもを介して地域と学校がつながり地域社会を変えることができるという双方向的な関係性を築くことが改めて重要であるという意見がありました。
最後に、愛媛大学の富田英司先生に本会のご講評をいただきました。富田先生のご講評を踏まえると、防災に対して主体的に取り組む子どもの育成を目指すうえで、子どもを取り巻く環境を教師や地域社会がいかにマネジメントするかがポイントであると考えます。特に、子どもが主体的に取り組む姿勢を発揮できる状況を教師が創出しているか、また子どもを取り巻く大人が多様な意見を受け止めようとしているかなども見直す必要があると考えます。子ども、教師、学校、地域社会など多様な主体が関わる防災学習だからこそ、もう一度立ち返って考える契機にもなるかもしれません。
本会は、学校教育にとどまらず地域社会と連携したこれからの防災学習のあり方を考える貴重な機会となりました。本会を開催するにあたり、ご尽力いただきました西予市の関係者の皆様、ご発表いただきました先生方や関係者の皆様をはじめ、ご参加いただきましたすべての皆様に感謝申し上げます。今後も、継続して意見交換の場を設けることができれば幸いです。ありがとうございました。
(本事業は、令和5年度愛媛大学地域協働教育支援事業「西予市内の社会教育施設の活用を通した防災教育プログラムの実践」の一環として実施しました。)