第19回愛媛社会科主権者教育研究会成果報告

第19回愛媛社会科主権者教育研究会成果報告

2025年3月11日(火)に第19回愛媛社会科・主権者教育研究会が愛媛大学教育学部にて開催されました。

今回のメインテーマは、「附属学校の研究成果を公立学校の授業に活かすための視点や方法」でした。当日は、愛媛大学教育学部附属小学校の品川崇教諭、豊田高広教諭、附属中学校江角紀行教諭、高橋祐貴教諭に実践報告をしていただき、兵庫教育大学濱野清先生、東京学芸大学川﨑誠司先生よりご講評をいただきました。

まず、附属小学校での実践を品川先生、豊田先生より報告が行われました。

品川先生は、第三学年「火事からくらしを守る-協力とは?-」の単元について報告されました。従来の火事に関する授業では、学習の成果が生活経験に基づくものに留まり、子どもたちが切実感を持ちにくい点が課題として指摘されていました。そこで、地域の防災活動を担う関係機関の協力体制に着目し、「協力」の概念を問い直しながら、火事からまちを守るためにできることについて考え抜くことのできる子供の育成を目指した単元モデルが提案されました。

(品川先生ご発表の様子)

豊田先生は、附属小学校の研究テーマである「探究的な学び」について理論的な説明を行い、第五学年「船をつくり 社会をつくる -造船業-」の単元について報告されました。教材選定において本県・今治市の造船業を題材にした意義を述べられていました。授業では、造船業に携わる人々の工夫や努力に焦点を当て、世界とつながる造船業の未来を考えさせることで、答えのない問いに粘り強く取り組める児童の育成を目指した単元モデルが提案されました。

(豊田先生ご発表の様子)

つぎに、江角先生と高橋先生より、附属中学校の実践報告が行われました。

江角先生は、附属中学校の研究テーマである「エージェンシー」について説明し、社会科では主体的に社会の課題解決に関わろうとする子どもの育成を目指すことを目標として設定していると報告されました。江角先生は、子どもたちが自身を社会変革の主体として捉えられていない実態を踏まえ、社会変革へ前向きな姿勢を涵養させるために、概念化と自己調整に着目した授業設計について述べられました。特に、概念化について、個別的な知識の羅列になりがちであることを課題として指摘し、それらを乗り越えるための指導として、①固有名詞の使用制限、②その州に関わる地球的課題への理解を深める思考ツールの工夫、③GTとの連携が中心として述べられていました。その具体を、「南アメリカ州」を取り扱った世界諸地域の単元モデルに基づいて説明していただきました。また、最後に単元を貫く問いの妥当性や、授業後、子どもたちが社会変革へ消極的な姿勢を見せたことを課題として述べられていました。

(江角先生ご発表の様子)

そして、附属中学校の高橋先生よりエージェンシー育成を目指す社会科授業について、歴史的分野の道後温泉を取り上げた、身近な歴史における単元モデルに基づいて説明がなされました。高橋先生は、エージェンシー育成のために、地域と日本全体とのつながりとメタ認知に着目した授業設計について述べられていました。地域の歴史を日本全体の歴史と関連付け、双方向的に考察させることで、生徒の視野を広げることが教育的効果として示されました。また、デジタルポートフォリオを活用して学びを振り返らせることで、学習内容の再構築を促す実践が紹介されました。最後に、「身近な歴史をどのように生徒にとって切実なものにするか」という課題が提起されました。

(高橋先生ご発表の様子)

報告後には、兵庫教育大学の濱野清先生、東京学芸大学の川﨑誠司先生よりご講評をいただきました。

◯濱野清先生

濱野先生からは、「タテとヨコ」をキーワードに、次期学習指導要領改訂と関連させたご講評をいただきました。ここでの「タテとヨコ」としては、校種(タテ)・教科(ヨコ)・観点同士(ヨコ)・具体と抽象 (タテ)が挙げられていました。

校種について、学習の系統性を活かすことはもちろん、思考レベルや考察レベルの発達と次学年とのつながりを意識した授業設計を行うことの重要性について述べられていました。教科について、社会科だからこその役割とは何かを明らかにすること同時に、他教科にどのようなつながりを持たせることができるか考えることの重要性について述べられていました。観点同士について、内容中心論から脱却するために、個別的な知識と個別的な思考、概念的な知識と複雑な思考との関連を意識することが述べられていました。また、個別と概念、複雑と個別といった具体と抽象を往還することの大切さについても指摘されていました。今回の報告された実践は、こうしたタテとヨコのつながりが意識されたものであり、次期改訂を射程に入れたモデルであると整理されていました。そして、今後はこうした次期改訂を視野に入れた授業設計や単元開発が、より一層求められることを主張されていました。

(濱野先生によるご講評の様子)

◯川﨑誠司先生

川﨑先生は、①子どもたちの学びに向かう意欲、②ルーブリックの変遷、③具体と抽象の往還を目指した授業設計、以上3点に着目した講評をいただきました。①について、特に、江角先生の実践を取り上げて述べられていました。江角先生は、社会変革に消極的な姿勢をとった子どもたちの姿を課題と捉えましたが、別の見方をすると、権力のない自分を自覚できたという点で考え抜いた姿といえるのでなないかと指摘されていました。それを踏まえ、考え抜いている子供の姿をどのように捉え、分かりやすいものではないその姿を見とっていくのかが重要であると述べられていました。②については、ルーブリックは動的なものであり、教師が授業を重ねていくなかでどのように修正されていったか、そのプロセスを辿ることの重要性を述べられていました。③については、濱野先生の講評と関連して、具体と抽象を往還させることの重要性を述べられていました。

(川﨑先生によるご講評の様子)

参加者の感想は以下の通りです。

〇附属中学校の地理の授業実践は大変興味深いものでした。特に、単元の最後のまとめの段階で「固有名詞を使わず、まとめ(どんな地域であるか)を行う」という部分が面白いと思うと同時に、知識の羅列にならないための工夫であることを知ることができた。授業実践や大学の模擬授業の場で、固有名詞をキーワードとしてまとめを書く場面を見ますが、まとめこそ、社会科の見方・考え方を働かせて、自分の言葉でまとめられるように、1時間の授業で見方・考え方を働かせられるように教材を工夫したり発問を工夫したりすることが大切であると考えます(気づきました)。児童生徒が見方・考え方を働かせるようになるためには、日頃からそれに慣れることが大切であり、固有名詞ではなく、固有名詞を表現するような言葉を社会科の視点から考えることも面白いと思います。

〇身近な地域の捉え方と扱い方が最も印象に残りました。自身も研究対象として身近な地域を取り入れた単元開発・実践を行いましたが、その中で身近な地域をどうカリキュラムに落とし込み、学習指導要領が求める知の獲得を生徒にさせていくのかという点で悩んでいました。本研究会において、話題に上がり、様々な示唆を得ることができたので、今後の授業開発に活かしていきたいと考えました。

〇発達段階に応じた課題設定を行うことの必要性について学んだことが特に印象に残りました。ついつい子どもに求めすぎてしまうという一面もあると感じたし、小中高というなかで、一つの系統性を意識して、授業づくりをすることが大切であると感じたためです。

今回の報告会より、異校種間の授業実践の結果を共有する場を設定し、それらの系統性を明らかにすることの重要性を再認識することができました。各自治体でこうした取組が広がることによって、地域独自の系統表が生まれ、よりよい社会科授業づくりに繋がるのではないかと考えました。

平日にもかかわらず、現職の先生方にもご参加いただき本当にうれしく思いました。関係者の皆様、ありがとうございました。