第5回愛媛主権者教育研修会報告

第5回愛媛主権者教育研修会報告

 令和3年度3月19日(土)午後1時~午後3時30分に第五回愛媛主権者教育研修会(令和3年度愛媛大学附属高等学校地理歴史科公民科授業研究会との合同開催)がオンラインで開催されました。学生や教員を含めた関係者の方々が参加し、学校と地域社会の連携を重視する主権者教育のあり方について考えました。
 第一部は、小中高等学校、NPOで先進的な主権者教育の授業づくりに取り組んでおられる先生方に実践報告をしていただきました。第二部は、実践報告の内容をふまえ、「①連携するからこそ育むことができる力とは(目標)」、「②①を育成するための指導とは(学習内容・学習方法)」、「③地域社会と連携を重視した主権者教育を推進するために必要となることは何か」について参加者による活発な意見交換が行われました。
 小学校の実践報告①では、愛媛大学教育学部附属小学校の品川崇先生に2年生の生活科の授業実践について報告をしていただきました。低学年の子どもたちが、自分たちの学習の成果を聞いてもらうために、地域社会の大人たちにどのような働きかけを行えばよいのかを考えさせ、主権者として必要となる交渉力の育成を目指す授業モデルを提案していただきました。実践報告②では、松山市立味生第二小学校髙岡遼介先生に6年生の社会科の授業実践について報告をしていただきました。復旧・復興に携わる外部人材と協働的な議論を通して、持続可能なまちづくりの担い手として必要となる資質育成を目指す授業モデルを提案していただきました。
 中学校の実践報告①では、愛媛大学教育学部附属中学校の江角紀行先生に地理的分野の授業実践について報告をしていただきました。画期的だったのは、オーストラリアの共生社会の実現を目指して取り組んでいる政策を子どもが評価したうえで、専門的な知見を有する外部人材との対話を通して、考えた意見を振り返り精緻化する学習を展開していた点です。専門家の活用を通した授業のあり方を考える際に、手がかりとなる授業モデルを提案していただきました。実践報告②では、同じく附属中学校の高橋祐貴先生に公民的分野の授業実践について報告をしていただきました。政治的リテラシー涵養を目指すために、現実社会で実際に議論されている政策をどのように取り扱い、議論指導を行うのかという点について具体的な授業事例に基づいて提案していただきました。
 高等学校の実践報告①では、愛媛大学附属高等学校の谷井正和先生に公民科の授業実践について報告をしていただきました。特に、「主体的に学習に取り組む態度」の評価方法について、具体的な取り組みをご紹介していただきました。実践報告②は、愛媛大学教職大学院(現職教員学生:愛媛県立吉田高等学校)の平井慎太郎先生に、公民科の授業実践について報告をしていただきました。新科目「公共」に対する教員の意識調査の結果や具体的な授業実践の概要に加え、地域社会との連携を推進するための効果的な方法として、学校内における教員同士の協働やカリキュラム・マネジメントの取り組みを提案していただきました。
 NPOの実践報告は、NPO法人NEXT CONEXION代表の越智大貴氏にご自身の団体が取り組んでいる授業実践について報告をしていただきました。印象的だったのは、学校だけで主権者教育を完結させるのではなく、外部機関に委ねることで有効な主権者教育を実現することができるのではないかという提案です。今後、主権者育成を目指すうえで学校や外部機関はそれぞれどのような役割を担うべきなのかという点について、関係者が気軽に意見交換することができる場づくりを行う必要があるように感じました。
 第二部の意見交換では、参加者同士で活発な意見交換が行われました。意見交換後にいただいた小学校の先生の次のコメントは大変示唆的だと感じました。「(外部機関と連携を通した授業実践を行うにあたって)危惧するのは、『簡単に、はやく』のような言葉が多く出ていました。自分が取り組んできた実感として、連携が難しかったり、連携をしながら困難に直面したりした時こそ、授業のヒントになることが多かった気がします。」
 学習指導要領において重視されているのは、解決困難な問題や課題の解決策を他者と協働して考えることができる力の育成です。そのような力を身に付けていくためには、問題や課題に粘り強く向き合うことが必要になります。解決困難な事柄について考えることは、「ややこしいこと」を考えるということであり、「ややこしさ」を学習活動から排除しては主権者育成にはつながらないと言えます。このことをふまえて改めて主権者教育における連携の在り方を考えてみると、活躍する大人の取組を紹介するだけでは、「主権者教育における意味ある連携」は実現されないのではないでしょうか。学習に携わる大人と子どもが「ややこしいこと」に向き合い、あーでもないこーでもないと悩みつつ意見交換を行うことで、妥協点を見出していく議論を重視する主権者教育を推進することが真の連携の実現につながると考えます。
 今後も、学校と地域社会との連携の在り方について考え続けていきたいと思います。最後になりましたが、本会に参加された全ての方々に心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

(シティズンシップラボ・井上昌善)

【当日の様子】

NPOの授業実践の報告の様子

【参加者の主なご意見:本研修会を通して学んだことの中で特に印象に残っていることは何ですか?】

〇主権者教育に関心がある、ないし協力の意思のある外部人材と学校関係者とのつながる場つくりに課題があるのが一番印象的であった。

〇”連携についての、現場、学生とも不安を感じていることがよくわかりました。特に、井上先生が行っていたような、コーデネーター的な役割を期待したり、人材バンクを要望したり。ただ、危惧するのは、「簡単に、はやく」のような言葉が多く出ていました。自分が取り組んできた実感として、連携が難しかったり、連携をしながら困難に直面したりした時こそ、授業のヒントになることが多かった気がします。そのあたり、どう伝えていけばいいのか、今後の課題かなと思いました。

〇貴重な機会をいただきありがとうございました。今後もよろしくお願いします。

〇一口に外部人材と言っても、それは多様であり、校種や児童・生徒の発達段階の違いに応じた活用が必要とされること。

〇地域との連携を図ることに一定のハードルがあること。しかし、その地域連携を得られればより多くの教育活動の可能性が開かれることを再認識できたこと。「開かれた学校教育」を目指すうえで主権者教育での取り組みはその一助となりうると思えたから。

〇外部人材が子どもと関わることにメリットを感じていないことこそが課題。小学校段階ではその課題が顕著だろうし、教員は自分のやりたい授業ができると思っていたが、外部人材と連携するとこっちの思いだけではどうにもならないことがあると知ったから。

〇最終回の小学校校種の方がおっしゃっていた、外部人材との連携で、実際にかかわる中でやはりお互いのメリットになるように目的をはっきりして関わらないといけないと思いハードルを感じていたが、特に小学生は地域の課題というよりも関わることが大切であるため、お互いのメリットというのではなく同じ市民とし小学生の学びに寛容的になること、なれないなら、なぜなれないのかといったことも考えてもらう必要があると仰っていたこと。小学生といえど、市民であるといった立場の人とそうでないといった立場の人がいるが、この点について地域と関わる際に共に考えることが必要であると思った。

〇話し合いの中で出た様々な機関と連携する必要があるという意見。漠然とその方が良いというイメージはあったが、外部機関は基本的に一つの思想の基に動いているため偏りが起きてしまう理由を聞いてハッとしたため。

〇学校の外部との連携について互いに行いたいと思っているがうまくつながれていなかったり、外部との連携への仕組みづくりの整備や周知が必要なのかもしれないと感じました。人口減少社会において、地域を維持していくためには様々な機関との連携は必要であり、こういった会でそのヒントがたくさんあると感じたからです。

〇一つ目は、主権者としての資質・能力について十分に考える必要があることです。授業ひいては教育活動を推進する基礎になることを改めて実感しました。外部人材との連携に際して、共に学ぶ空間を創ることが重要であると考えます。二つ目は、外部機関との連携について難しさを感じている先生方が多いことです。そこには、外的な要因(時間など)よりも、内的な要因(どのように連携するのか、なぜ連携するのかを説明する難しさ)を感じれいらっしゃる先生方が多いように思われました。

〇主権者意識を育成していくうえでの多様な他者とのかかわりはとても重要であるということ。特に、品川先生の実践の中で子供たちが地域の人々と粘り強く交渉することを通して、地域の人々とかかわる態度であったり、地域に向ける関心を深めていく様子は印象的でした。

〇品川先生のご発表が特に印象に残っている。外部人材との関わりな難しさを赤裸々に語っておられ、大変勉強になった。また、全体を通して外部人材との関わりの重要性と課題を把握することができ、非常にためになった。

〇社会の形成者としての自覚を持たせることが課題となるが、自らが社会へ関心を持ち、自分ごととしてとらえさせていく意識付けを、学校内外を通して身に付けさせなければならないと改めて感じました。

〇主権者の育成にあたり、外部機関の連携がなぜ重要なのかを改めて実感することができた。社会科や地歴・公民科の授業だけで主権者教育を行うのではなく、カリマネの視点を持って総探の時間に思い切って組み込んでいく視点に関して共感することができたため。

〇附属中学校の報告で自己内対話について話されていたことです。勤務校でも対話的実践論をベースに対話の実践研究をしているので大変勉強になりました。省察性を高める対話の在り方や主権者教育における対話の役割を今後考えたいと思います。