第5回主権者教育研修会・第7回ESD授業づくり研修会報告
桑原先生発表の様子
(本事業は、博報堂教育財団による第15回児童教育実践についての研究助成を受けて実施するものです。)
2021年2月27日(土)に第5回主権者教育研修会・第7回ESD授業づくり研修会を開催しました。当日は50名以上の方の参加していただきました。今回は、地域社会と連携・協働した主権者教育のあり方について、中学校の社会科授業開発に意欲的に取り組んでおられる実践家、研究者の先生方をお招きして考えていきました。
第一部では、高知県佐川町立佐川中学校の岩崎圭祐先生より地域と協働した主権者育成を目指す中学校社会科授業づくりのポイントについて、具体的な実践をふまえて報告をしていただきました。
第二部では、岡山大学大学院の桑原敏典教授より地域社会と連携する主権者教育の意義と方法について講演をしていただきました。
第三部では、NEXT CONEXION越智大貴氏からのコメントをふまえ「地域社会と連携した主権者教育」について、参加者とともに意見交換を行いました。
【参加者の主なご意見①:本研修会を通して学んだことの中で特に印象に残っていること】
・学校には学校の、地域社会には地域社会の得意分野があり、それを生かして実践を行って行くことが重要だと感じた。また。岩崎先生の実践から、地域(行政)とのつながりを求める際にも互いの思惑の違いなどがあり、粘り強く目指す方向性を共有していくことが必要なんだと感じた。(学校の先生)
・授業実践の報告はとても興味深いものがあり、自分でも実践してみたいと思うような内容でした。特に「自治体運営ゲーム」については、生徒も楽しく学べ、教科書だけでは学べないことも学べるのではないかと思いました。またこれからの学校や大学、地域との関係も考えなければならないというふうに実感しました。(学部生)
・雲南市の自治体運営ゲームの例を改めて見て、自治体が向き合っている課題を捉え、解決に向けて予算や切実性などから子どもに考えさせる機会は重要であると感じた。ただ、それを踏まえて、どうあれば自治体としてもっとよりよく自治体運営ができるのか、市民の意見が反映できるのかを更に考えさせることが主権者育成の面だけでなく、今後の社会の仕組みにも目を向けて考えられる点で効果があるのではないのかと感じた。(大学院生)
・桑原先生の、主権者教育とは「主権者として相手を尊重したうえで学びを保障できる学習」という捉え方。学習者は主権ではないという前提に立った0→1の学習ではなく、主権者として尊重したうえで、より社会に目をむけられるように視野を広げていく1→10の学習が大切である。(学部生)
・主権者教育の考え方の中で「大人が子どもの上に立っている」というのが、まさにその通りで、子ども自身が「主権者」であることに気付かない、あるいは力のない主権者だと思っていることにつながっているのではないかと感じた。(学校の先生)
・越智様の番での内容にあった、主権者教育をどう捉えているか、という話題の皆様の意見が、ハッと気づくことが多かったです。特に、桑原先生の、主権者教育は主権者を育てる教育ではなく、主権者に対する教育だ、という考えは成程、と思いました。(行政の方)
【参加者の主なご意見②:本会のテーマである「地域社会と連携した主権者教育」について思うこと】
・本日は貴重な学びの機会をいただきありがとうございました。あらためて主権者教育の意味や実施していく上での難しさを考えることができました。子どもよりもまずは、周囲にいる教師や大人の考え方を変えていかなければいけないと思いました。そのためにも、まずは教師自身が社会の多様な方々とのつながる機会をもち、社会と子どもたちのパイプ役をしていくことも大切であると痛感しました。(学校の先生)
・地域社会と連携した主権者教育を推進していくために、教員が地域社会にアクセスしやすいしくみが必要なのではないかと思った。岩崎先生のように意識・実践力の高い教員はある程度大丈夫だと思うが、多くの教員が頼れるものがあればいいけど自分で開拓するのが困難という実態は多いのではないかと感じる。そういったアクセスしやすいシステムがあれば、実践のきっかけになり、それが主権者教育を推進する足がかりにもあるのではないかと感じた。じゃあ、そのようなシステムや運営は誰が担うのか。それはまたまた難しい・・・。(学校の先生)
・地域社会との連携にはコミュニティ・スクールの仕組みが有効だと思います。この仕組みがしっかりとできている学校は、校長が変わっても学校と地域が目標を共有しながら様々な取組ができます。新学習指導要領では「持続可能な社会の担い手」として必要な資質・能力の育成が求められています。主権者教育だけでなく環境教育など様々な学習を通して子どもたちが自分ごととして取り組んでいく力をつけることが大切だと思います。(学校の先生)
・今年度から、人事異動もあり主権者教育について考えるようになりました。一口に主権者教育といっても、そのアプローチ方法はとても多く思います。例えば選挙啓発からアプローチしたり、自伐型林業からアプローチしたり。もちろん、すべて「主権者教育」という目的は一致するところですが、その手段の範囲があまりに広く、先生方のように積極的に考えていらっしゃる方以外の人にとって、その教育の全体像がぼやけて見えるのではないか、と思います。(行政の方)
・最後に渡部先生が仰っていたように、いわゆる「やる気のある人」が孤立している状況の改善が重要だと考える渡部先生は併せて、センター的機能をもった主権者教育の機関を作る構想を紹介されていた。個人的に(危険なほど無批判に)「後ろ盾(実践経験とその評価)が少ない若手の教員にとってはかなり助けとなる機関になる」と思いながら拝聴した。
・私は地元の郷土史家が集まる団体に所属しており、地域の史料を生かした教材開発、授業実践を行いたいと考えている。ただ、私の所属する団体に現在一人も現役の教員がいないように、半ば孤立した状況で実行していかなければならないことが予想される。このような分野においても、何か後ろ盾となり得るようなものは無いか、創れないか模索したいと考える。(学部生)
・貴重な発表を聞いていただきながら、「地域社会と連携した主権者教育」について学校内の教師の難しさを感じました。なぜかというと、実はいくつ地域社会の人々と連携している主権者教育授業を見学しましたが、その時点で子ども達から出たアイディアもすごくいいし、地域社会にも役に立つと思いますけど、実際に授業で取り扱う課題について、子どもたちは授業が終わった後に引き続き取り組んでいるのかについて疑問を持ってます。また、教師達は持続的なプログラムを開発しよう気持ちがあっても、現実的に色々な困難がありますね。なので、どのような学校と地域社会の連携システムを構築したら持続的な主権者教育プログラムをできるのかを興味深いです。(大学院生)
・地域社会と連携することに反対する教員の意見を聞いてみたいです。(大学院生)
(企画・運営者より)
学習指導要領改訂に伴い学校現場に「社会に開かれた教育課程」の実現が要請され、地域社会と連携した教育活動が展開されるようになってきています。しかしながら、「地域社会と連携する意義は何か?育てる子ども像は?(目標)」、「有効な連携方法は?(方法)」、「その際に取り扱うテーマは?(内容)」という目標・内容・方法の観点から総合的に議論する機会は決して多くはないのが現状ではないでしょうか。本会は、このような現状を鑑み主権者教育・ESDに関心のある方々と上記のような「そもそも論」について意見交換を行うことを目的として開催いたしました。
今回は、学校現場の先生だけではなく県外の大学生や大学院生、行政関係者の方々も多数ご参加いただき、改めて地域社会と連携する主権者教育が注目されていることを実感しました。参加者の皆様お一人お一人と十分に議論することはできませんでしたが、今後もこのような機会をつくり、これからの主権者教育のあり方について考えていきたいと思います。ご参加いただいた方々に心より御礼申し上げます。この度は誠にありがとうございました。